銭湯ジャーニー

尼崎市「蓬莱湯」─2018年新年の訪問

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年が明けて3日目。ふと思い立ち、久しぶりに尼崎の銭湯に行こうと思った。

一昨年から昨年にかけて開催された尼崎銭湯のスタンプラリー「福湯めぐり」でスタッフをしていたにも関わらず、忙しさもあって、なかなか顔を出すことが出来ないでいたのだ。

年末年始、銭湯の営業時間は通常と異なっていることがほとんどだ。よく利用する銭湯であれば、店頭に張り出されている年末年始の営業時間を記録しているのだが、久しぶりの銭湯となるとネット上にも公式な情報がほとんどない。

ただ、尼崎市内の銭湯に関しては「福湯めぐり」を開催した有志の団体「尼崎温銭郷(あまがさきおんせんきょう)」としても活動されているある銭湯のご主人が、独自で調査された営業情報リストがあったので非常に助かった。

本日は、そのリストの中から、尼崎温銭郷でも中心となって活動されている銭湯 「蓬莱湯」さんへ。

車で最寄り駅の阪神電鉄「尼崎モータープール前駅」まで向かう。通り過ぎざまに見た駅前のスーパー銭湯は、駐車場の入口に車の長い列が出来ていた。満車でなかなか入れなさそうだ。きっと新年のひとときを、温かいお湯につかって過ごしたい人が多いのだろう。

蓬莱湯には専用駐車場もあるのだけれど、混んでいることを予想して駅前のコインパーキングに車を駐車。徒歩数分の蓬莱湯へと向かう。歩き始めてしばらくすると、蓬莱湯の専用駐車場の看板が見えてくる。その看板から通りを曲がれば、蓬莱湯はすぐそこだ。

予想通り蓬莱湯の無料駐車場は満車。でも、無料駐車場に隣接してるコインパーキングの方には空車があり、駅前より料金が安かった。次からはこっちに停めよう。

蓬莱湯に到着すると、ちょうど子供連れの家族が出口から出てくるところ。新年の記念に訪れたのだろか、小学生くらいの男の子が暖簾前で家族写真を撮りたがっている。写真に写り込まないよう、急いで暖簾をくぐると、ちょうど下足室で女将さんと鉢合わせた。

「あら、久しぶり! いらっしゃい!」と、女将さんは笑顔で迎えてくれる。
「すみません、なかなか顔出せなくて」

蓬莱湯に来るのは何ヶ月かぶりだろう。尼崎市は僕が育った町で思い入れも強く、市内に銭湯が数多く残る地域でもある。出来れば定期的に訪れて、尼崎温銭郷の活動にもっと関わりたい気持ちもあるのだけれど、今は時間的な制約もあってなかなか難しい。

受付フロント越しに、しばらく女将さんと近況報告の会話。
入浴前に蓬莱湯オリジナル石鹸のサンプルと、お年賀にと、商品の石鹸も一つまるごと頂いた。このオリジナル石鹸。蓬莱湯で使われている「温泉」の成分が使われた美容石鹸で、実際に使ってみるの初めて。

蓬莱湯の最大の特徴は「天然温泉の掛け流し」であることだ。普段は銭湯に行かない人でも、なぜか蓬莱湯にだけは行ったことがあるという人は多い。お客さんにとっても、天然温泉が銭湯価格(尼崎の場合、大人420円)で堪能できることは大きな魅力なのだ。

そして、いわゆるデザイナーズ銭湯であることも、もう一つの特徴。

暖色で明るく、脱衣カゴがある脱衣所。浴室の形に古い銭湯の面影を残しつつ、やや落とした照明と、シックで落ち着いた内装で統一された浴室は、まるで高級ホテルのスパ施設のような雰囲気が漂っている。既存銭湯のイメージから飛躍したその光景に、最初訪れた時には驚いたものだった。

さっそく脱衣所で服を脱いで入浴準備を整える。いつでも銭湯に行けるように、石鹸箱とボディタオルをジップロック入れ、さらにそれを防水の小袋に入れたものを、カバンの中に入れて持ち歩いている。女性や人によってはさらに荷物が増えたりするのだろうが、個人的にはこれが変遷の末に辿り着いた入浴道具のベストチョイス。

タオルは、ほとんどの銭湯で用意されている貸しタオルを使う。数十円のプラス料金がかかるけれど、その分、荷物が少なくて済む。入浴するときには石鹸箱とボディタオルを浴室の洗面器に入れて、邪魔にならない所に置いておく。

まだ日がある夕方の時間帯だったので、蓬莱湯の浴室は光が射し込んで明るい。

洗い場にも湯舟にも、お客さんの姿が多いようだ。空いている洗い場で体を流し、さぁ、湯舟につかろう……というところで、湯舟の腰掛けで足を滑らせ、盛大に尻もちをついてしまった。心配そうに覗き込んでくれた人に「すみません、大丈夫です」と軽く頭を下げる。

ああ、恥ずかしい……というのはさておき、これだけ銭湯に入り慣れていても足を滑らせることがあるのだ。天然温泉は普通の白湯よりもぬめりがあるとは言え、もっと注意しないと……と、自分を戒めた瞬間だった。

戒めながらも、平静を装って湯舟につかる。蓬莱湯の主浴槽は天然温泉の掛け流し。やや茶褐色のお湯と、その中で舞っている源泉由来の有機物が天然温泉の証だ。肩までじんわりとお湯につかっていると、温泉ならではの、しっとりとした肌触りがなんとも心地良い。他のお客さんも、その肌触りを味わうように、じっと湯舟でつかっている人が多いように見える。

体が熱くなってきたところで、浴室奥の水風呂へ向かう。水風呂は温泉ではなく白湯仕立てで、ほぼ常温。キンキンの水風呂しか許せない人には物足りないかも知れないが、常温の水風呂は心臓への負担も少なく入りやすいので、いろんな人が利用できる。かく言う僕も、元々は水風呂に入れなかったが「ぬるい水風呂」に出会ったおかげで入れるようになり、今では水風呂大好きになってしまった。温浴と水風呂を繰り返す「温冷浴」は一度覚えてしまうと、これなしではいられなくなるくらいに気持ちが良い。

水風呂のあとは、ふたたび温泉の主浴槽に体を沈める。このルーティーンを何度か繰り返しているうちに、体が芯から温まってきた感触になってくる。

次に体を洗う。せっかくなので、先ほど頂いた「蓬莱湯オリジナル石鹸」のサンプルを使わせて頂くことにする。手に取ってみると、いつも使っている牛乳石鹸よりもやや固めで綺麗な乳白色。それをボディタオルで泡立ててゆくと、さわやかな柑橘系の香りが立ち上ってくることに気がついた。後に女将さんに聞くと、ユズの種子油を原料として練り込んであるらしい。立てた泡もしっかりとキメの細かいもので、いつもより洗い上がりの肌がしっとりとしている感じがする。いいな、これ…… 。

かれこれ1時間半ほどの入浴を終えての湯上がり。着替えてフロントロビーへ。

ちょうど期間限定で、東京から蓬莱湯の手伝いをしに来ているという銭湯ファンの方とお会いすることが出来たので、お茶を頂きながらの銭湯談義。

ひとくちに銭湯と言っても、東京と大阪では基本的な作りも違うし入浴に関するマナーも違う。自治体や業界組合が活発な東京銭湯のお話を聞けて、非常に参考になった。特に東京のある区で実施された銭湯スタンプラリーの「1カ所ずつ巡る必要はなく、同じ店でスタンプを押してもOK」というルールは、なるほどなぁと思った。そのルールのおかげで、遠距離の移動が難しい高齢の常連さんでも、スタンプラリーを一緒に楽しめたのだとか。

老若男女、誰にでも開かれているのが銭湯の醍醐味のひとつ。その醍醐味を生かしながらのスタンプラリーのアイデアは素晴らしい。

しばらく話し込んでからの帰宅時間。あたりはすっかりと暗くなっていた。ライトアップされた蓬莱湯の看板が綺麗だ。
蓬莱湯では色々なイベントも開催しているし、春には尼崎温銭郷としても某イベントに出展予定のようだ。今抱えている仕事がひと段落したら、もっと尼崎銭湯にも関わっていこう。

2018/01/03 記述

【蓬莱湯】
●住所
兵庫県尼崎市道意町2丁目21番2

●営業時間
平日・土曜 15:00〜23:30
日曜 12:00~23:30
※23時まで受付

●定休日
毎週金曜日(祝日は営業)

●公式サイト
https://houraiyu.jp/

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